化物語 アニメ 6話と原作の比較

アニメ「化物語」の各シーンが原作(小説)ではどう書かれているかを紹介しています。



小説 化物語(上) 261ページ

やや幼さが残るが、しかし、三年生でも滅多にいないないような、
凛々しい雰囲気を漂わす表情、そしてきりっとした眼で――まっすぐに、僕を見る。
宣誓でもするように、胸に手を置いて。そして、にこりと、軽く微笑む。
「やあ、阿良々木先輩。奇遇だな」
「こんな仕組まれた奇遇がありえるか!」
明らかに狙いすまして駆けてきただろうが。
辺りを見れば、八九寺は、見事に姿を消していた。
僕に対してはあんなずばずば、ずけずけと物を言う癖に、
意外と人見知りをする子供である八九寺真宵、さすがに判断が早い、
あまりにも軽やかなフットワークだった。まあ、あいつでなくっても、
見知らぬ女がものすごいスピードで走ってきたりしたら
(あいつの位置からは、神原が自分目掛けて突貫してきたように見えたはずだ)、
誰だって普通に逃げるだろうけれど。
しかし。本当に友情に薄い奴だ………まあいいけど。
視線を戻すと、神原は、何故かうっとりした風に、深々と感じ入っているように、
何度も何度も繰り返し、頷いていた。
「……どうしたんだよ」
「いや、阿良々木先輩の言葉を思い出していたのだ。心に深く銘記するためにな。
『こんな仕組まれた奇遇がありえるか』、か……
思いつきそうでなかなか思いつきそうにない、
見事に状況に即した一言だったなあ、と。当意即妙とはこのことだ」
「………………」
「うん、そうなのだ」そして神原は言った。
「実は私は阿良々木先輩を追いかけてきたのだ」
「……だろうな。知ってたよ」
「そうか、知っていたか。さすがは阿良々木先輩だ、
私のような若輩がやるようなことは、全てお見通しなのだな。
決まりが悪くて面映い限りではあるか。しかし素直に、感服するばかりだぞ」



小説 化物語(上) 273ページ~274ページ

「良々々木さん」
「……さっきのに較べれば限りなく正解に漸近した感じではあるが、
しかし八九寺、僕の名前をミュージカルみたいに歌い上げるな。僕の名前は阿良々木だ」
「失礼。噛みました」
「違う、わざとだ……」
「噛みまみた」
「わざとじやないっ!?」
「垣間見た」
「僕の才能の一端をか!?」
いつの聞にか、僕の横に八九寺がいた。
神原がいなくなったのを見て取って、戻ってきたらしい。
八九寺のことだから本当のところはわからないけれど、
その素早さからすると、一応、僕を置いて一人さっさと逃げ出したことについて、
それなりの罪悪感を覚えていたのかもしれない。
名前の間違いも、今回に限っては本当にわざと、故意の照れ隠しと見るのか正当か。
「何ですか?あの方は」
「見ててわからなかったか?」
「ふうむ。阿良々木さんのことを先輩と呼んでいた辺りから推理させていただくと、
そうですね、阿良々木さんの後輩ですか?」
「……名推理だな」
 ここで神原なら、マーロウだかなんだか、
とにかく古典の探偵なんかを引き合いに出して、
八九寺を思い切り持ち上げるようなことを言うのだろうが、駄目だ、
一瞬だけその真似をしてみょうかと思ったのだけれど、
僕の中の何かが、それを許可しようとしない……。
「しかし、阿良々木さん。陰でこっそり聞かせていただきましたが、
あの方とはどうにも要領を得ない会話をされていましたね。
会話のテーマか最後までよくわかりませんでした。あの方、
雑談をするために、阿良々木さんを走って追いかけてきたのでしょうか?」
「ああ……いや。八九寺、そんな風に訊かれても、
僕にもそれはよくはわからないんだけれど……」
「わからないとは、えらく水彩画を描く意見ですね」
「僕の意見は美術部員か」精彩を欠く、な。



小説 化物語(上) 317ページ

「座布団の脇に置いたまま、忘れてきちゃったか……あーあ、どうするかな」
お金のことだから早めに済ませておいた方がいいのは確かだが、
けれどそんな取り立てて急ぐというわけではないし、
明日また学校で会ったときにでも受け取ればいい話ではあるのだが……
どうしよう?そんなことはないとは思うけれど、
本当はちゃんと服のポケットにでも入れていて、それを、
羽川と電話しながら歩いている内に、気付かず落としてしまったという可能性も
なきにしもあらずだから、念のために戦場ヶ原に電話をして
確認を取った方がいいのか……いや。
自転車を押しながらの歩きだったから、そんな距離を稼いだわけでもない、
ペダルを漕いで戻れば、すぐさま民倉荘に到着するだろう。
ならば、今からでも取りに戻る方が正着手だ。
時間が時間だから、最悪の場合戦場ヶ原の父親と顔を合わせる
羽目になるかもしれないが、しかし、
話に聞く戦場ヶ原の父親の多忙さを考えれば、
その確率は無視していいほどには恬いはずである。
電話で済むと言われれば確かにその通りなのだけれど、戦場ヶ原とは、
会えるチャンスには少しでも会っておきたいからな。
アピールの仕方はわからないけれど。少しは恋愛気分を味わわせてもらうとしよう。
「んじゃ、まあ」
サドルにまたがりつつ、自転車の方向を反転させて――
僕は、雨が降ってきたのかと思った。
雫か頬に触れたから、とか、そういうことではなく、自転車を反転させたすぐ先にいた――
まるで僕のことを今までずっと尾行していたかのように、
すぐ先にいた『人物』の格好か、僕の視界に入ったからである。
『人物』。上下の雨合羽。
フードをずっぽり、深く被っている。


小説 化物語(上) 325ページ

「……いや、僕が一人で転んだだけだよ。前方不注意でな……電話しながら、
ペダルを漕いでいたら……電柱に、激突しちやって……」
「あらそう。なら、そうね、せめて電柱だけでも壊しておきましょうか?」
八つ当たりだった。逆恨みですらない。
「近隣の住民のみなさんに迷惑だろうから、それはやめておいてくれ……」
「そう……けれど、あんな丈夫そうなブロック塀をも破壊する勢いで激突して、
その程度の怪我で済むなんて、阿良々木くん、とても身体が柔らかいのね。感心するわ。
その身体の柔らかさは、いつか役に立つときが来るでしょうね。
えっと、救急車は……いらないんだっけ?」
「ああ……」
戦場ヶ原も、僕とは、会えるときには少しでも会っておきたいと思って、
わざわざ手間をかけて、その封筒を持ってきてくれたのだろうか?
バスを使って、僕の家にまで届けてくれるつもりだったのだろうか。
だとすれば、僕としては、その行為だけでは、それでもまだ
ツンデレというほどではないにしたって、単純に、浮かれちゃいそうでは、あるよな……。
それに、お陰で助かった。図らずも。
雨合羽は、戦場ヶ原の姿を捉えて――姿を消したのだろうから。
「しばらく休んでりゃ、すぐ動けるようになるさ」
「そう。じゃ、そんな阿良々木くんに大サービス」
ひょいっと――
戦場ヶ原は、仰向けに倒れている僕の頭を、跨ぐようにした。
ちなみに、戦場ヶ原の今日のファッションは、先にも触れた、長めのスカート。
ストッキングは穿いていない、すらりとした生足で――そしてこの場合、
この視点からではスカートの長さは、あんまり関係がなかった。
「動けるようになるまで、幸せな気分でいなさいな」
「……………」

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