化物語 アニメ 5話と原作の比較

アニメ「化物語」の各シーンが原作(小説)ではどう書かれているかを紹介しています。


アニメ 化物語 5話




小説 化物語(上) 190ページ

「それはともかく、阿良々木さん」
「何だよ」
「わたしはお腹がすいていますよ?」
だからどうした。僕がうっかり果たすべき義務を果たしてないことを、
気遣って遠まわしに教えてくれているみたいな言い方してんじゃねえよ。
とはいえ、そう言われてみれば、そうだ、蝸牛のことがあって有耶無耶になっていたが、
考えてみれば、八九寺には昼ご飯を食べさせていない。
そう、戦場ヶ原もそうだった……あいつの場合、ひょっとしたら忍野のところに行く前に、
一人どこかで何かを食べている可能性かないでもないが。
あー、気が回らなかったな。僕は今、割と食べなくても平気な身体だから。
「じゃ、戦場ヶ原が戻ってきたら、どっかに何か食食べに行こうぜ。
つっても、この辺、家しかないから――別にお前、
お母さんの家以外なら、どこにでも行けるんだろ?」
「はい。行けます」
「そっか。じゃ、戦場ヶ原に訊けばいいか――
一番近い食べ物屋くらい知ってるだろ。で、お前、何か好きな食べ物とかあるのか?」
「食べ物であればなんでも好きです」
「ふうん」
「阿良々木さんの手もおいしかったです」
「僕の手は食べ物じゃない」
「またまたご謙遜を。おいしかったのは本当です」
「……………」
ていうかお前は多分、マジで僕の血肉、少なからず飲み込んじやってるから、
その発言はかなり洒落にならないぞ。カニバリズム少女。
「ところでさ、八九寺。お前、そのお母さんの家に行ったことがあるっていうのは、本当なんだな?」
「本当です。嘘はつきません」
「なるほど……」



小説 化物語(上) 195ページ

「すると、今までいい子だった分、反動が来てさ。
勿論、別に何があるってわけじゃないんだよ。父親も母親も今まで通りだし、
僕も家じゃ今まで通り、のつもりだけれど――
ただ、言葉にならない気まずさみたいなものがあってな。
そういうのは、どうしても、出て、残ってしまう。
だから、結局、お互い気を遣っちゃうし、それに――」
妹。二人の妹が。
――兄ちゃんは、そんなことだから――
「そんなことだから、僕は――いつまでたっても大人になれない、んだってさ。
いつまでも大人になれない、子供のままだ――そうだ」
「子供ですか」八九寺は言う。
「では、わたしと同じです」
「……お前と一緒ってわけじゃないと思うけどな。
身体ばっかでっかくなって。中身がそれについていってないって意味だろうから」
「阿良々木さんはレディに対してかなり失礼なことを言いますね。
これでもわたし、クラスではかなり発育のよい方です」
「確かに、なかなか立派な胸をしていたな」
「はっ!? 触りましたか!? いつ触りました!?」
仰天した顔で眼を剥く八九寺。しまった、口が猾っちゃった。
「えっと……取っ組み合いしたとき」
「殴られたことよりショックです!」
八九寺は頭を抱えた。本当にショックらしい。
「いや……別にわざとじやないし、一瞬だけだし」
「一瞬っ!? 一本当に本当ですかっ!?」
「ああ。三回くらいしか触れていない」
「一瞬じやありませんし、それ、二回目からはあきらかにわざとですっ」



小説 化物語(上) 200ページ~201ページ

「では、生むみ生もめ生ままもと三回言ってください」
「お前が言えてないじゃん」
「生もめだなんて、いやらしいですっ!」
「言ったのはお前だからな」
「生ままもだなんて、いやらしいですっ!」
「そのいやらしさは、僕にはわからないが……」
楽しい会話だった。
「ていうか、意図的に言おうと思えば、
却って言いにくい言葉だろう、生ままも……」
「生ままま1つ!」
「…………」
噛んだり噛んだり、忙しい奴だ。
「で。どうかされましたか、阿良々木さん」
「どうもしないよ。ただ、妹にどんな風に謝ったもんかを考えると、
ちょっと憂鬱になっちまっただけだ」
[謝るということは、胸でも揉みましたか]
「妹の胸なんか揉むか」「阿良々木さんは小学生の胸は揉んでも妹の胸なんか揉まないんですね。
なるほど、そういう線引きで自身を律しているわけですか」
「ほほう。皮肉を言うとは骨のある奴め。どんな事実であれ脚色して文脈を講ずると、
他人を誹謗中傷できるといういい例だな」
「別に脚色はしていませんが」
確かに素直な文脈だった。むしろ僕がなんとか文脈を講じて、
相当壮絶な言い訳をする必要が、切実にありそうな感じである。
「では、言い直しましょう。阿良々木さんは小学生の胸は揉んでも
中学生の胸は揉まないんですね」
「とんでもなくロリコンレペルの高そうな奴だな、その阿良々木さんとやらは。
あまり友達になりたくないタイプの男だと見える」
「自分はロリコンではないと言いたげですね」
「当然だ、そんなもん」
「真のロリコンは、決して自身をロリコンとは認めないそうです。
何故なら彼らはあどけなき少女を既に立派な大人の女性として、認めているそうですから」
「いらねえ豆知識だな……」



小説 化物語(上) 218ページ

どんな思いも、劣化していきます。
だから――
一人娘は母親に会いに行くことにしました。
その年の、五月、第二日曜日。
母の日に。勿論父親にはそんなこと言えるはずもありませんし、
母親にあらかじめ連絡を入れるようなこともできません。
母親が今どんな状態にあるのか、一人娘は全く知らないのですから――それに。
嫌われていたら。迷惑かられたら。あるいは――忘れられていたら。
とても、ショックだから。
正直に言うなら――いつでも踵を返して家に帰れるよう、
最後まで計画中止の選択肢を残しておくために、
一人娘は、誰にも何も言わず、親しい友達にさえ内緒で――母親を訪れました。
訪れようとしました。
髪を自分で丁寧に結って、お気に入りのリュックサックに、
母親か喜んでくれるだろう、そう信じたい、昔の思い出を、いっぱい詰めて。
道に迷わないよう、住所を書いたメモを、手に握り締めて。
けれど。
一人娘は、辿り着けませんでした。母親の家には、辿り着けませんでした。
どうしてでしょう。
どうしてでしょう。
本当に、どうしてなんでしょう。
信号は、確かに、青色だったのに――
「――その一人娘というのが、わたしです」
と。八九寺真宵は1告白した。
いや、それは、懺悔だったのかもしれない。
その、とても申し訳なさそうな、今にも泣き崩れてしまいそうな表情を見ていると、
そうとしか考えられないくらいだった。



小説 化物語(上) 228ページ

「う――裏技?」
「本当――見透かしてるわよね、あの人。一体、
何を考えて生きているのか、皆目見当つかないわ」
じゃあ行くわよ、と、軽い調子でマウンテンバイクに跨る戦場ヶ原。
既にマシンが自分の所有物であるかのような、手馴れた扱いだった。
「行くって、どこへ」
「勿論、綱手さんのおうちよ。善良な一市民として、
八九寺ちゃんを送り届けにね。私についてきて頂戴、
先導してあげるわ。それから、阿良々木くん」
「なんだよ」
「I love you」
「………………」
変わらぬ口調で、指さして言われた。
……………と。
更に数秒間考えて、どうやら僕は、同級生に英語で告白された、
日本初の男になってしまったようだということを、理解した。
「おめでとうございます」
八九寺がそう言った。全ての意味で、場違いで的外れな言葉だった。



小説 化物語(上) 232ページ

世の中はそんなにうまくいかないものなのか。
願いは叶わないのか。
迷い牛の、目的地そのものがなくなっているというのなら――
それこそ本当に、彼女は、永遠に迷い続ける、
永遠に漂い続ける、際限なくぐるぐると渦巻き続ける、
蝸牛の迷子じゃ――ないか。
なんて災禍だ。忍野は。
あのサイケデリックなアロハ野郎は、この結末すら――
こんな最後すら、見透かしていたのだろうか。
だから、あるいは、それゆえに、わざわざ――
忍野メメは、あれだけ軽薄で、あんなお喋りな調子者だけれど――
別れの言葉は決して口にしないし、訊かれないことには
絶対に答えない男なのだ。頼まれなければ勳かないし、
頼んだから応えてくれるとも限らない。
言うべきことを言わなくとも、まるで平気。
「う、うあ」
隣から、八九寺の嗚咽か聞こえた。
あまりの現実に、とにかく驚くことだけに精一杯で、
肝心の八九寺のことを、全く気遣えずにいた自分に思い至り、
僕はそちらを振り向く――
八九寺は、泣いていた。ただし俯いてではなく――前を向いて。
更地の上――家があっただろう、その方向を見て。
「う、うあ、あ、あ――」
そして。たっ、と、八九寺は、僕の脇を抜けて、駆けた。

「――ただいまっ、帰りましたっ」

忍野は。当然のように――当たり前のこととして、
この結末を――こんな最後を、見透かしていたのだろう。
言うべきことを――言わない男。
全く、最初に言っておいて欲しい。



小説 化物語(上) 239ページ~240ページ

「じゃ、行こうか。すっかり暗くなっちまったし、えーっと……
送っていくよ、って言うのかな、こういう場合」
「あの自転車じゃ二人乗りは無理でしょう」
「棒があるから、三人は無理でも二人なら大丈夫」
「棒?」
「足を置く棒。正式名称は知らないけど……後輪に装着するんだ。
で、そこに立つわけ。前の奴の肩に、手を置いてな。
どっちが前かはジャンケンで決めようぜ。蝸牛はもういないから、
帰りは別に普通に帰っていいんだよな。
来た道なんて複雑過ぎて覚えてないし……。戦場ヶ原、じゃあ――」
「待って、阿良々木くん」戦場ヶ原は、まだ動かなかった。
動かないまま、僕の手首をつかむ。
他人との接触を、長らく自らに禁じてきた戦楊ヶ原ひたぎ――
だから、勿論、彼女の方から、そんな風に僕に触ってくるのは、
これが初めてのことだった。触れる。見える。
つまり、僕達は。ここにいるのだろう。お互いに。
「一応、言葉にしておいてくれるかしら」
「言葉に?」
「なあなあの関係は、嫌だから」
「ああ――そういうこと」
考える。
究極を求める彼女に、ここで英語を返すのも、芸がない。
かといって他の言語に関する知識となると、生半可なものしか僕にはないし、
どちらにしても、二番煎じの感を否めない。と、すると――
「はやるといいよな」
「はい?」
「戦場ヶ原、蕩れ」
ともあれ、これで、概ねのところ。
羽川の思い込みは正鵠を射ることとなった。
やはりあの委員長は、何でも知っているらしい。



小説 化物語(上) 241ページ

翌日、いつものように二人の妹、火憐と月火に叩き起こされた。
起こしにきたということは、どうやら、
無条件降伏に近い謝罪の言葉が効を奏したらしく、二人の怒りは無事に解けたようだった。
それとも、今年は結局、何もできなかったわけだけれど、
来年の母の日は家の敷地内から絶対に出ないという約束を交わしたのが、
よかったのかもしれない。とにかく、月曜日。何のイベントもない、最高の平日。
軽く朝御飯を食べて、学校へ向かう。マウンテンバイクではなく、ママチャリで。
戦場ヶ原も今日から出席しているはずだと思うと、ペダルを漕ぐ足も、自然、軽かった。
けれど、道中、まだそんなに距離を稼いでいない下り坂で、
よたよたと歩いていた女の子と衝突しそうになって、僕は慌てて、急ブレーキをかけた。
前髪の短い、眉を出したツインテイル。
大きなリュックサックを背負った女の子だった。
「あ………阿々良木さん」
「入れ替わってるからな」
「失礼。噛みました」
「何してんの」
「あ、いえ、何と言いますか」
女の子は、隠れ身の術に失敗した忍者みたいな戸惑いの表情を見せてから、
照れ笑いを浮かべる。
「えーっとですねっ、わたし、阿良々木さんのお陰で、
無事に地縛霊から浮遊霊へと出世しましたっ。二階級特進というわけですっ」
「へえ……」ドン引き。
いくら軽薄なお調子者とは言え、一応は専門家の忍野が聞いたら、
あいつでも多分卒倒してしまうだろうと思われる、
いい加減というか適当というか、素敵滅法な論理だった。

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