アニメ「化物語」の各シーンが原作(小説)ではどう書かれているかを紹介しています。
アニメ 化物語 12話
小説 化物語(下) 195ページ~196ページ
「あーん」
「………………!」
うわ……っ!何、このシチュエーション……!
漫画とかでよく見るラブラブな恋人同士のラブラブイベントの一つとして
よく知られているけど、なんだこれ、全然嬉しくない、嫌だっていうか、むしろ普通に怖い!
戦場ヶ原とくれば、相変わらずの平坦な無表情だし……
照れくさそうなはにかみ顔とかでやってくるなら全然歓迎なんだが、
相手の感情が読めないっていうのは、この状況ではかなりキツい……。
ついつい何を企んでいるのかって思っちやう。ものすごく裏かありそう。
ていうか裏しかなさそう。両B面だ。僕がここで間抜けに囗を開けたら。
ひょいっとフェイントをかけて、僕のことを笑いものにする気じゃないのか。
「どうしたの?阿良々木くん。あーん、てば」
「………………」
いや……。自分の恋人のことを疑ってどうする。
戦場ヶ原は確かに意地悪だが、そこまで酷いことをする奴じゃない。
付き合い始めて1ヵ月、まだまだ長い付き合いだとは言えないが、それでも、
それなりにお互いのことは理解できているはずだ。
信頼関係は成立しているのである。それを自ら壊すような真似をしてどうする?
僕は戦場ヶ原の彼氏なんだ。
「あ、あーん」口を開けた。
「えい」戦場ヶ原は白米を、開けた口のちょっと右側、僕の頬に押し付けた。
「………………」
いやいやいや。わかりきってたオチではあるけれど。
「ふ、ふふふ」笑う戦場ヶ原。腹の立つ、静かな笑い方だ。
「ふふふ……あはは。はは」
「……お前の笑顔か見れて僕はとても嬉しいよ」昔は滅多に笑わない奴だったのに。
今もこういうときにしか笑わないけれど。基本的にはとにかく無表情なんだよな。
「阿良々木くん、ほっぺたにご飯粒がついてるわよ」
「お前がつけたんだ」
「とってあげる」
一旦箸を置いて、直接手を伸ばしてくる戦場ヶ原。
僕の頬から、自分で塗りつけたご飯粒を、丁寧な仕草で、一粒一粒、つまみとる。
うーん。これはこれで……。
「はい。とれた」と言って。
ぽいっと、脇のゴミ箱に、その米粒の塊を捨てた。……捨てるんだ。目の前で捨てるか……。
いや、別に食べるとは思ってなかったけども。
「さて」と、手際よく、戦場ヶ原は仕切りなおす。なかったことにされた感じだ。
「デートをします」繰り返した。
小説 化物語(下) 203ページ
うーん。
父親が格好いいというのは本人が格好いいよりポイントが高いよな……。
「どうしたの、阿良々木くん」
しばらく距離を進んだところで、隣に座っている戦場ヶ原が、僕に話しかけてきた。
「随分と無口じゃないの」
「あのな……お前、今の状況、わかってんのか?」
「わからないわね。今とはいつ。状況とはどんな漢字を書くのかしら」
「そんなところからわかってねえのかよ!」
とぼけやがって、この女。人の気も知らずに。
「阿良々木くん。初めてのデートだから緊張するのはもっともだけれど、
でも、そんなことじゃ、持たないわよ。夜は長いのだから」
「ああ……」
僕は今初めてのデートだから緊張しているわけじゃない……!
夜のデートが意味深長だとか考えていた頃の自分が本気で懐かしい。
あの頃の僕は幸せだった。夜が長いという事実か。正直、ただただ恐ろしい。
どうして夜は長いんだ。今はただ、
この時間が一刻も早く終わってくれればと、僕は願っている……。
「ねえ阿良々木くん」
戦場ヶ原が平坦な口調で言う。
しかし、こいつには緊張はないのだろうか。
「私のこと、好き?」
「…………!」
ものすごい嫌がらせを受けてる!毒舌以外にも、こんなことができるのかこいつ!
「答えてよ。私のこと、好き?」
小説 化物語(下) 223ページ
か、歓談ねえ?
なんか、黙りっぱなしっていうのも、感じ悪いだろうし……
そうは言っても、戦場ヶ原の父親から、悪印象は持たれたくないよなあ。
けれど……親戚でも教師でもない、軽く自分の倍以上生きていそうな人と
会話する機会なんて、僕はこれまでほとんど持っていないからな……。
なんて。迷っている内に、あにはからんや、戦場ヶ原父の方から、口火を切っていた。
「阿良々木くん――とか言ったね」
「……………」
とかって……。いきなり高い壁を感じる……。
けど、それにしてもこの人、本当に俳優さんみたいに、
いい声をしているな……声が格好いいと思える人って、案外いないものなのだが。
「は、はい……阿良々木、暦です」僕がそう答えると、
「そうか」と、頷く戦場ヶ原父。
「娘を、よろしく頼む」
えええっ!?
いきなり何言っちやってんのこの人!
「なんちゃって」と。戦場ヶ原父は続けた。
……なんちやってって……。
親父ギャグ?
これが本当の親父ギャグなのか!?
けれど、にこりともせずにそんなことを言われても――
僕が反応に困っているのを見て楽しんでるって風でもないし……
どうしろというのだ。どうしろと言われても、どうにもできないぞ。
小説 化物語(下) 238ページ
あらかた、星座の解説を終えて―― 戦場ヶ原は、平坦に言った。
「これで、全部よ」
「ん……? 何がだ?」
「私か持っているもの、全部」星空を見上げたままで言う戦場ヶ原。
「勉強を教えてあげられること。可愛い後輩と、ぶっきらぽうなお父さん。
それに――この星空。私が持っているのは、これくらいのもの。
私が阿良々木くんにあげられるのは、これくらいのもの。これくらいで、全部」
「全部……」
なんだ……そういうことだったのか?
一昨日の神原のことも……いや、そもそも、
付き合い始めたあの母の日から1ヵ月、ずっとこいつは、そんなことを考えていたのか?
僕からのデートの誘いにも、全く乗ってこなかったことと言い……
神原との仲直りのことはイレギュラーとして、あれは、実力テストが終わり、
父親と時間か合うのを、待っていたということなのか?
羽川の言葉が思い出される。
戦場ヶ原さんは、難しいよ――と。
「まあ、厳密に言えば、毒舌や暴言かあるけれど」
「それはいらない!」
「それに、私自身の肉体というのもあるけれど」
「…………」
私自身の肉体って……。遠回しなようで露骨な言い方だ。
「それもいらない?」
[え、いや……その]
いらない――とは、言えないよな?
でも、この場面で、それが欲しいって言うのも、なんか違う気が……。
小説 化物語(下) 241ページ~242ページ
本当なら、このまま、勢いに任せて、戦場ヶ原に抱きつきたいくらいだったけれど――
そんなことで戦場ケ原を失うのは、僕にしたって御免だった。
哂せるような手札は、そもそも僕にはないけれど……、
戦場ケ原との関係は、とりあえず、こんな感じでいいように思えた。
いらないわけじやないけれど。一緒に寝転がって星空を見上げる。
そんな恋人同士で、僕達はいい。プラトニックな関係――だ。
「ねえ阿良々木くん」戦場ケ原が平坦に言う。
「私のこと、好き?」
「好きだよ」
「私も好きよ。阿良々木くんのこと」
「ありがとう」
「私のどういうところが好き?」
「全部好きだ。好きじゃないところはない」
「そう。嬉しいわ」
「お前は、僕のどういうところが好きなんだ?」
「優しいところ。可愛いところ。私が困っているときには
いつだって助けに駆けつけてくれる王子様みたいなところ」
「嬉しいよ」
「そう言えば」
と、今気付いた風に言う、戦場ヶ原。
「あの下種は、私の身体だけか目当てだったから
――私の唇を奪おうとは、全くしなかったわね」
「ふうん?どういうことだ?」
「あの下種は、そういった素振りは一切見せなかったと言っているのよ
……阿良々木くん。だから」
小説 化物語(下) 242ページ~243ページ
そして。
戦場ヶ原は照れも衒いもまるで滲ませず、言った。
「キスをします」
「………………」
怖い。怖いよ、ひたぎさん。
「違うわね。こうじゃないわ。キスを……キスをして……いただけませんか?
キスをし……したらどうな……です……」
「……………………」
「キスをしましょう、阿良々木くん」
「最終的に、そう落ち着くか」
妥当と言えば妥当なところだった。らしいと言えば、これ以上なくらしい。
こうして――今日は記念すべき日になった。僕達にとって。
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