化物語 アニメ 2話と原作の比較

アニメ「化物語」の各シーンが原作(小説)ではどう書かれているかを紹介しています。

アニメ 化物語 2話




小説 化物語(上) 61ページ

やっぱり、命の危険だったりの観点から見れば――
戦場ヶ原より羽川の方か悲惨だったと、単純に言えるのだが、
しかし――戦場ヶ原が一体どれほどの思いで今に至っているかを考えると。
現状を考えると。考えてしまうと。
優しさを敵対行為と看做すまでに至る人生とは、
一体、どのようなものなのだろう。
影を売った若者。重みを失った彼女。
僕には、わからない。僕にわかる話じゃ――ないのだ。
「シャワー、済ませたわよ」戦場ヶ原が脱衣所から出てきた。
すっぽんぽんだった。
「ぐあああっ!」
「そこをどいて頂戴。服が取り出せないわ」
平然と、戦場ヶ原が、濡れた髪を鬱陶しそうにしながら、
僕が背にしていた衣装箪笥を指さす。
「服を着ろ服を!」
「だから今から着るのよ」
「なんで今から着るんだ!」
「着るなって言うの?」
「着てろって言ってんだ!」
「持って入るのを忘れていたのよ」
「だったらタオルで隠すとかしやかれ!」
「嫌よ、そんな貧乏くさい真似」
澄ました顔で、堂々としたものだった。
議論が無駄なことは火を見るよりも明らかだったので、
僕は這いずるように衣装箪笥の前から離れ、本棚の前に移動し、
並んでいる本の冊数でも数えているみたいに、そこに視点と思考を集中させた。
女性の全裸を、初めて見てしまった………



小説 化物語(上) 71ページ~72ページ

「偏差値チェック。私、七十四」
「くっ……」先に言いやがった。
「僕、四十六……」
「四捨五入すればゼロね」
「はあ!?嘘つけ、六だから……あ、お前、さては十の位を!僕の偏差値になんてことをするんだ!」
三十近くも勝ってる癖に、死者を鞭打つような真似を!
「百、差をつけないと、勝った気がしないのよ」
[自分の数値も十の位を……]容赦ねえ。
「そういうわけで、これからは半径二万キロ以内には近寄らないでね」
「地球外退去を命じられたり」
「ところで神様は、その兎さんをちゃんと食べてあげたのかしらね?」
『え?あ、また話が戻ったのか。食べたかどうかって
……そこまで話を進めたら猟奇的になるだろうが」
「進めなくても十分猟奇よ」
[さあね。知らないよ、頭が悪いから]
「すねないでよ。私の気分が悪くなるじゃない」
「お前、僕が可哀想になってこないのか……?」
「あなた一人を哀れんでも、世界から戦争はなくならない」
「たった一人の人間も救えない奴が世界を語るな!まずは目の前のちっぽけな命を助けてみろ!
お前にはそれができるはずだ!」
「ふむ。決めたわ」戦場ヶ原は、白いタンクトップに白いジャケット、
そして、白いフレアのスカートを穿き、ようやく着衣を終えたところで、言った。
「もしも全てがうまく行ったら、北海道へ蟹を食べに行きましょう」
「北海道まで行かなくても蟹は食えると思うし、全然季節じゃないと思うけれど、
まあ、戦場ヶ原かそうしたいって言うんなら、いいんじゃないのか?」
「あなたも行くのよ」
「なんでっ!?」
「あら、知らなかったの?」戦場ヶ原は微笑した。
「蟹って、とっても、おいしいのよ。」



小説 化物語(上) 82ページ

「音楽はあまり嗜みません」
「小学校を卒業するとき、どう思った?」
「単純に中学校に移るだけだと思いました。公立から公立へ、行くだけだったから」
「初恋の男の子はどんな子だった?」
「言いたくありません」
「今までの人生で」忍野は変わらぬ口調で言った。
「一番、辛かった思い出は?」
「………………」
戦場ヶ原は――ここで、答に詰まった。
言いたくない――でもなく、沈黙。
それで、忍野が、この質問だけに意味を持たせていたことを、僕は知る。
「どうしたの?  一番――辛かった、思い出。記憶について、訊いているんだ」
「……お」沈黙を守ることのできる――雰囲気ではなかった。
言いたくないと、拒絶も出来ない。これが――状況。
形成された、場。手順通りに1ことは進む。
「お母さんが――」
「お母さんか」
「悪い、宗教に嵌ったこと」
性質の悪い新興宗教に嵌った。そう言っていた。
財産を全て貢いで、借金まで背負って、家庭か崩壊するまでに至ったと。
離婚した今でも、父親は、そのときの借金を返すために、
夜も寝られないような生活を、続けていると。
それが―― 一番、辛かった思い出なのだろうか?
己の重さが―― 失われたことよりも?
当たり前だ。その方が辛いに、決まっている。



小説 化物語(上) 86ページ

取り乱していた。あの――戦場ヶ原が。
「何か――見えるかい?」忍野か問う。
「み――見えます。
あのときと同じ――あのときと同じ、大きな蟹が、蟹が――見える」
「そうかい。僕には全く見えないがね」
忍野はそこで初めて振り返り、僕を向く。
「阿良々木くんには、何か見えるかい?」
「見え――ない」見えるのは、ただ。
揺らぐ明かりと。揺らぐ影。
そんなのは――見えていないのと同じだ。
同定できない。
「何も――見えない」
「だそうだ」
戦場ヶ原に向き直る忍野。
「本当は蟹なんて見えて、いないんじゃない?」
「い、いえ――はっきりと。見えます。私には」
「錯覚じゃない?」
「錯覚じゃありません――本当です」
「そう。だったら――」
忍野は戦場ヶ原の視線を追う。
その先に、何かが――いるように。
その先に、何かが――あるように。
「だったら言うべきことが、あるんじゃないか?」
「言うべき――こと」
そのとき。特に、何か考えかあったわけでも、
何をするつもりだったのでもないだろうけれど、戦場ヶ原は――顔をあげてしまった。
多分、状況に――
場に、耐え切れなかったのだろう。それだけだろう。



小説 化物語(上) 97ページ~98ページ

「おもし蟹は、重みを奪い、思いを奪い、存在を奪う。
けれど、吸血鬼の忍ちやんや色ボケ猫とは訳が違う――
お嬢ちやんが望んだから、むしろ与えたんだ。物々交換――
神様は、ずっと、そこにいたんだから。お譲ちゃんは、実際的には、
何も失ってなんかいなかったんだよ。それなのに」
それなのに。それでも。それゆえに。
戦場ヶ原ひたぎは――返して欲しかった。
返して欲しかった。もう、どうしようもない、母親の思い出を。
記憶と、悩みを。それがどういうことなのかは僕には、
本当のところはわからないし、これからもわからないままなのだろうけれど、
そして、忍野の言う通り、だからどうということもなく、
母親も戻らず家庭も戻らず、ただ戦場ヶ原が一人、ひたすら、
辛い思いをするだけなのだろうけれど――
何も変わらないのだろうけれど。
「何も変わらないなんてことはないわ」
戦場ヶ原は、最後に言った。
赤く泣き腫らした目で、僕に向かって。
「それに、決して無駄でもなかったのよ。
少なくとも、大切な友達が一人、できたのだから」
「誰のことだ?」
「あなたのことよ」
反射的にとぼけてみせた僕に対して、照れもなく、それに、
遠回しにでもなく、堂々と――戦場ヶ原は、胸を張った。
「ありがとう、阿良々木くん。私は、あなたにとても、感謝しているわ。
今までのこと、全部謝ります。図々しいかもしれないけれど、
これからも仲良くしてくれたら、私、とても嬉しいわ」
不覚にも――戦場ヶ原からのその不意打ちは、
僕の胸に、深く深く、染み入ったのだった。
蟹を食べに行く約束は。どうやら、冬を待つことになりそうだけれど。

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