化物語 アニメ 1話と原作の比較

アニメ「化物語」の各シーンが原作(小説)ではどう書かれているかを紹介しています。

アニメ 化物語 1話




小説 化物語(上) 24ページ

「まさかあんなところにバナナの皮が落ちているだなんて、思いもしなかったわ」
僕は今バナナの皮で足を滑らす女に活殺自在。ていうかなんでそんなものが学校の階段に。
「気付いているんでしょう?」戦場ヶ原は僕に問う。
目つきは、剣呑なままだ。こんな深窓の令嬢かいてたまるか。
「そう、私には――重さがない」体重が、ない。
「といっても、全くないというわけではないのよ――
私の身長・体格だと、平均体重は四十キロ後半強というところらしいのだけれど」
五十キロらしい。左頬が内側から伸ばされ、右頬肉が圧迫された。
変な想像は許さないわよ。今私のヌードを思い浮かべたでしょう」
全然違うが、結果的には鋭かった。
「四十キロ後半強というところらしいのだけれど」
戦場ヶ原は主張した。譲らないみたいだ。
「でも、実際の体重は、五キロ」
五キロ。生まれたばかりの赤子と、そう変わらない。
五キロのダンベルを思い浮かべれば、一概にゼロに近いといえるほどの数字ではないが、
しかし五キロという質量が、人間一人の大きさに分散していることを考えれば、
密度の問題――実感としては、体重がないも同然だ。
受け止めるのも、容易い。
「まあ、正確を期すなら、体重計が表示する重量が五キロというだけなのだけれど――
本人としては自覚はないわ。四十キロ後半強だった頃も、私白身は、今も、何も変わらない」



小説 化物語(上) 32ページ~33ページ

どたばた音をさせながら、転がるように追いかけたのだ、既に察していたのだろう、
こちらに背中を向けてはいるものの、既に、振り返っている。冷めた目で。
「……呆れたわ」そう言う。
「いえ、ここは素直に鶩いたというべきね。あれだけのことをされておいて、
すぐに反抗精神を立ち上げることができたのなんて、
覚えている限りではあなたが初めてよ、阿良々木くん」
「初めてって……」他でもやってたのかよ。
百日の説法とか言ってた癖に。
でも、確かに、考えてみれば、『体重が無い』なんて、
触れられればそれですぐにバレてしまうような秘密を、
完全に守り通すなんてこと、現実的には不可能だよな……。
そう言えば『今現在』って言ってた、こいつ。本当に悪魔なのかもしれない。
「それに、囗の中の痛みって、そう簡単に回復するようなものじゃないはずなのだけれど。
普通、十分はその場から動けないのに」経験者の台詞だった。怖過ぎる。
「いいわ。分かった。分かりました、阿良々木くん。
『やられたらやり返す』というその態度は私の正義に反するものではありません。
だから、その覚悟があるというのなら」
戦場ヶ原はそう言って。両腕を、左右に、広げた。
「戦争を、しましょう」
その両手には――カッターナイフとホッチキスを始めに、
様々な文房具が、握られていた。先の尖ったHBの鉛筆、コンパス、
三色ボールペン、シャープペンシル、アロンアルフア、輪ゴム、ゼムクリップ、
目玉クリップ、ガチャック、油性マジック、安全ピン、万年筆、修正液、鋏、
セロハンテープ、ソーイングセット、ペーパーナイフ、二等辺三角形の三角定規、
三十センチ定規、分度器、液体のり、各種彫刻刀、絵の具、文鎮、墨汁。



小説 化物語(上) 41ページ

「感謝するなんて思わないでね」
「わかってるよ」
「むしろあなたが感謝なさい」
「わからねえぞ!?」
「あのホッチキス、傷が目立たないようにと思って、わざと、
外側じゃなくて内側に針が刺さるようにしてあげたのよ?」
それはどう考えても、『顔は目立つから腹を殴れ』みたいな、加害者側の都合だろう。
「そもそも、貫通したらおんなじだったろうが」
「阿良々木くんは面の皮が厚そうだから、なんとなく大丈夫そうだと判断したわ」
「嬉しくねえ嬉しくねえ。しかもなんとなくって」
「私の直感は、一割くらいは当たるわよ」
「低っ!」
「まあ――」
戦場ヶ原は。若干間を空けて、言った。
「どの道、全然、無駄な気遣いだったわけだけれど」
「……だな」
「不死身って便利そうねって言われたら、傷つく?」
戦場ヶ原の質問。僕は答えた。
「今は、そうでもない」
今は――そうでもない。
春休みだったら。
そんなことを言われたら――その言葉で、僕は死んでいたかもしれないけれど。
致命傷だったかも、しれないけれど。
「便利と言えば便利だし――不便と言えば不便だし。そんなところかな」
「どっちつかずね。よくわからないわ」肩を竦める戦場ヶ原。
「『往来危険』が危険なのかそうでないのか、どっちつかずなのと、似たようなものかしら」
「その言葉の『往来』はオーライじゃない」



小説 化物語(上) 52ページ~53ページ

……などと、精々そんなやり取りがあった程度なのだから、
僕としてはもう、戸惑うしかない。
まして、知り合ったばかりの女の子の家に入るなんて、
とか、そんなウプな文言を吐ける状況でもなかった。
ただ、お茶を、見つめるだけである。その戦場ヶ原は今、シャワーを浴びている。
身体を清めるための、禊ぎだとか。
忍野いわく、冷たい水で身体を洗い流し、
新品でなくともよいから清潔な服に着替えてくるように――との、ことだった。
要するに僕はそれにつき合わされているというわけだ――
まあ、学校から忍野のところまで僕の自転車で向かってしまった都合上、
それは当然のことでもあったのだが。
それ以上に忍野から、色々言い含められているので、仕方がない。
僕は、とても年頃の女の子の部屋とは思えない、殺風景な六畳間をぐるりと見、
それから、背後のかさな衣装箪笥にもたれるようにして――先刻の、忍野の言葉を。回想した。
「おもし蟹」
戰場ヶ原が、事情を――というほど、長い話ではなかったが、
とにかく、抱えている事情を、順序だてて語り終わったところで、忍野は、
「成程ねえ」と頷いた後、しばらく天井を見上げてから、ふと思いついたような響きで、そう言った。
「おもしかに?」戦場ヶ原が訊き返した。
「九州の山間あたりでの民間伝承だよ。地域によっておもし蟹だったり、
重いし蟹。重石蟹、それに、おもいし神ってのもある。
この場合、蟹と神がかかっているわけだ。細部は色々ばらついているけど、
共通しているのは、人から重みを失わせる――ってところだね。
行き遭ってしまうと――下手な行き遭い方をしてしまうと、その人間は、
存在感が希薄になる、そうだ、とも」
「存在感が――」
儚げ。とても――儚げで。今の方が――綺麗。
「存在感どころか、存在が消えてしまうって、物騒な例もあるけれどね。
似たような名前じゃ中部辺りに重石石ってのもあるけど、
ありゃ全くの別系統だろう。あっちは石で、こっちは蟹だし」
「蟹って――本当に蟹なのか?」
「馬鹿だなあ、阿良々木くん。宮崎やら大分やらの山間で、
そうそう蟹が取れるわけないだろう。単なる説話だよ」

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