アニメ「化物語」の各シーンが原作(小説)ではどう書かれているかを紹介しています。
アニメ 化物語 9話
小説 化物語(下) 12ページ~13ページ
六年。
人間が変わってしまうには十分な時間だ。
少なくとも、僕は自分のことを、すっかり変わってしまったと認識している。
昔からそういう奴だったと言っても、やはり今と昔とでは違うのだ。
小学校の卒業アルバムなど、今の僕は痛々しくて、とても見ていられない。
小学生の感性がどうのこうのとつまらないことも言ったか、
しかし、考えてみれば、僕は今の自分があの頃の自分よりも優れ、勝っているとはとても思えない。
思い出は美化されるものだとは言っても、
そう、痛々しくてとても見ていられないのは小学生の頃の僕ではなくて、
小学生の頃の僕から見る、今の僕ではないのだろうか。
いや、恥ずかしい限りだが、たとえば今このとき、
小学生の頃の自分と道でばったり出会っても、
お互いに自分の正面に立っているそれか自分自身だと、気付くことはないだろう。
それか悪いことなのかどうか分からない。
過去の自分に今の自分を誇れないこと。
しかしそんなことだってある。
誰だってそうかもしれない。
だから僕は、千石撫子と再会したとき、最初、それか誰なのか、
わからなかった――彼女のことを思い出すまでに。少し時間か掛かってしまった。
もしも僕がすぐに、そうでなくとももっと早く、
彼女のことに気付いていれば――蛇に釈まれた彼女に気付いていれば、
この物語はひょっとするとあんな結末には辿り着かなかったのではないかと思うと、
非常にやるせないのだが、そんな後悔は彼女に対しても怪異に対しても、きっと何の意味もない。
今回の話をいきなり結末から言ってしまえば、どうやら千石撫子は、
僕にとって、うろ覚えだった妹の友達から、
決して忘れることのできないたった一人になってしまったと、そういうことらしい。
小説 化物語(下) 62ページ~63ページ
「でもね、阿良々木くん」
とはいえ、この場合、そんな心配は杞憂だった。
「私が言っているのは、そういうことじゃなくて。神原さんのこと、大変だったねって」
「…………」
むしろ。僕は僕の心配をした方がよさそうだった。
「か・ん・ば・る・さ・ん・の・こ・と。大変だったねって、言ってるんだよ」
一言一句、区切って言われた。にっこり笑っている。その笑顔が、逆に怖い……。
「あ、ああ……そうだな、突然体調崩すからさ、
なんだったのかと思ったけど……でも、大事なくてよかったよ」
「そういうことじゃ、なく」真面目な口調で。羽川。
いや、ほとんどの場合、こいつの口調は真面目なのだが、今回は特に真面目だ。
「阿良々木くん、彼女の後輩と仲良し過ぎるのって、問題ない?
そりゃ、戦場ヶ原さんと神原さんの仲を取り持ったのは阿良々木くんなんだから、
ある程度仲良しなのは、いいと思うんだけど。腕を組むのはまずいでしょ」
「しょうがねえだろ。人懐っこい奴なんだよ」
「そんな言葉が言い訳になると思う?」
「それは……」
ならないよなあ。どう考えても。
「まあ、阿良々木くんにとっては、後輩って初めてだろうから、
わからなくもないけどね。中学生のときも帰宅部だったんでしよ?可愛い後輩って、嬉しいもんね。
それとも、単純に神原さんのおっぱいの感覚が気持ちよかったのかな?阿良々木くん、いやらしい」
「ぐっ……」微妙に反論できない。
違うのだが、違うといっても、如何せん嘘くさい。
小説 化物語(下) 88ページ
石に押しつけられるようにして――
蛇は、まだ生きている。
けれど――今にも殺されそうだった。
「やめろ、千石っ!」
「あ……」千石は――僕を見た。
目深にかぶった帽子の庇を、彫刻刀の先であげて。
千石撫子は――ゆっくりと、僕を見た。
「暦お兄ちゃん……」
お前は。
お前はまだ、僕のことを、そんな風に呼んでくれるのか――とか。
正義の道を歩みながらたった一つの判断ミスから果てない外道へと身を落とし、
聞くも涙、語るも涙の艱難辛苦を経験した末に闍の組織の幹部となり、
言うに耐えず見るに耐えない悪行を繰り返していた最中に、
かつて正義だった頃の同志が現れ、
その同志から昔の名前を呼ばれたダークヒーローのように、僕はそう思った。
小説 化物語(下) 94ページ
「さて、それではエロ本でも探すか」
「それは男友達が男友達の部屋に遊びに来たときに
発生するイベントだろうが!いいからお前はその辺に座ってろ!」
「しかし阿良々木先輩の好みを把握しておくことは、私にとって無益だとは思わない」
「僕にとっては無益どころか有害だ!」
「そう、つまり有害図書を……」
「お前が生きた有害図書だ!そこに座るか窓から飛び降りるか、二つに一つだ神原!」
「なんてな、勿論冗談だ、阿良々木先輩。阿良々木先輩の好みなど、
以前阿良々木先輩をストーキングしていた際に、きちんと洗ってある。
ここ最近、阿良々木先輩がどんなエロ本を購入したかは、完全につかんでいるのだ」
「何ぃ!? そんなまさか!あのとき店内には誰もいなかったはずだ!僕はちゃんと確認したぞ!」
「なかなかマニアックな好みをお持ちで」
「選択肢は一つだ、窓から飛び降りろ!」
「それはあんなプレイを迫られれば、大抵の女の子は窓から飛び降りてでも逃げるだろう。
ふふ、しかし無論、私ならば余裕でこなせるような、造作もないプレイだがな」
「誇らしげだー!」
見れば。千石が、くすくすと、声を濳ませて、笑っていた。
僕と神原とのやり取りが。受けたらしい。ううん、気恥ずかしい。
ここまでの道中でもそうだったのだが、昔の知り合いというのは、
どういう距離感で話していいのかわからないところがある。
それに――千石は、とにかく、物静かだ。
無口で、恥ずかしそうに、あまり喋らない。
小説 化物語(下) 100ページ
「緊縛の痕に似ているな」神原が言った。
確かに、ところどころ内出血すらしているらしい、その痛々しい痕跡は、
縄で縛られた痕であるかのようだった――
どうして神原駿河が緊縛痕について詳しいのかは、
触れるとややこしそうなので、ここでは触れない。
いや――緊縛痕というか……。
実際、爪先から、脚を辿って胴体ヘー何かが巻きついているかのようだった。
見えない何かが。全身に隈なく、鱗の痕。
巻きついて。巻き――憑いているかのようだった。
鱗の痕跡がないのは、精々両腕と、首から上の部位だけだ。
ブルマーに隠された腰部下腹部も、わざわざ見せてもらうまでもないだろう。
鱗。鱗といえば――魚か?
いや、この場合、魚じゃなくて、爬虫類-
蛇。蛇……くちなわ、だ。
[暦お兄ちゃん]千石は言った。
相変わらずの、消え入るような声で。がたがたと震える、その声で。
「暦お兄ちゃんはもう大人だから………撫子の裸を見て、
いやらしい気持ちになったりは、しないんだよね?」
「え?あ、ああ。そんなの当たり前じゃないか。なあ神原」
[うん?えっと……そう……なのかな?]
「話を合わせろよ!いつもの忠誠心はどうした!」
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