アニメ「化物語」の各シーンが原作(小説)ではどう書かれているかを紹介しています。
アニメ 化物語 10話
小説 化物語(下) 115ページ
「……………」
「でも、話している内に、同じくど素人の女子中学生か掛けたはずの呪いが
上首尾に終わってる理由の方は、わかったよ。
最初は、女の色恋の恨みは恐ろしいからかなあなんて漠然と思ったけど、
ちょっと違ったみたいだね。運悪く――だよ」
「どういうことだ?」
「多分、そのお嬢ちやんは、呪いが発動するよりも先に、呪いを掛けられた事実を、
知っちやったんだろうね。犯人がはっきりしているところから予測するに、
本人から直接、その事実を聞かされたんだろうな。
『あんたに呪いを掛けてやったわ』とか、なんとかさ。
それで動揺しちやって、本屋さんでお祓いの方法を調べて、
蛇をぶつ切りにするために――蛇が多く生息していると言われる山に入った。
神社は偶然見つけたって感じかな……まあ、あらかじめ知ってたのかもしれないけどさ。
で、お嬢ちやんはせっせと、蛇殺しに勦しんだわけだ」
「それのどこに、『運悪く』の要素があるんだ?」
「場所だよ。エアポケットの吹き溜まり――って言っただろう?」
よくないものが――集まっている。
忍の存在によって活性化された、よくないものが。
「それが――呪いを強めたのか」
「強めたというか、あの場所じゃなかったら、発動さえしなかったろうね。
阿良々木くんや百合っ子ちゃんとは違って、お嬢ちゃん、
肉体自体はただの人間のはずだから――体調を崩したりはしなかったろうけど、
よくないものの影響は、蛇切縄の方にしっかりと現れていたというわけさ」
抵抗力も――耐性もない。ど素人。
小説 化物語(下) 129ページ~130ページ
僕が妹二人の相手をしている隙に、二人には家を抜け出してもらい、
その後、僕は堂々と、外に出た。
妹達は怪しんではいるようだったか(特に下の妹。いい勘をしている)、
最後は強引に振り切って、打ち合わせた位置で、合流。
遅くまでやっている雑貨屋(コンビニにあらず)で、
必要器具を購入し(何分突然の流れで、
神原も千石もお金をあまり持っていなかったので、全額、僕が支払った)、
それから。例の山へと向かった。全員徒歩である。
「千石」
「あ、何……暦お兄ちゃん」びくっと反応する千石。
怒られると思ったのかもしれない。
硝子細工のようにデリケートな奴だ。
「お前、本当は、その痕――痛いんだってな。大丈夫なのか?」
「あ……」
千石の顔が、さっと真っ青になった。
「そ、その……怒らないで、暦お兄ちゃん」
「……いや、責めてるわけじゃないんだが」
嘘をついたことを叱られるとでも思ったのだろうか。
気が弱いというか、被害者意識が強いというか……
漫画やなんかでそういうキャラクターを見るたび、
ああ、こういう奴が現実にいたらさぞかし鬱陶しいんだろうなあと思っていたが、
こうしてみると、結構、まんざらでもないな……。
僕がいい人かどうとかいう以前の段階で、素直に保護欲を刺激される。
まあ、かなり年下の子供相手だからというのも、あるのだろう。
「大丈夫なのかって、思って」
「そ、その」
ぎゅっと、帽子を深く被り直す千石だった。
顔を隠すように。
見られたくないかのように。
小説 化物語(下) 135ページ
千石は言った。
「お兄ちやんって――羨ましかった」
「………………」
それは、ないものねだりだと思う。妹のいない人間が妹を欲しがるようなものだ。
僕だって、兄や姉、弟か欲しいと思うときかある
――それを持つ人間を、羨ましく思うことはある。
ただ、しかし、僕のように実際に妹を持つ人間と、一人っ子の千石の意見とは、
また別なのかもしれないな。一人っ子-か。
「そう言えば神原。お前、兄弟は――いないよな」
「いないぞ。私も一人っ子だ」
「そっか」
戦場ヶ原もそうだよな。八九寺も、羽川も。なんだ、一人っ子ばっかりじやないか。
忍は――どうなんだろう。吸血鬼には、兄弟って、いるんだろうか?
「よし――着いたぞ」
一番前を歩いていた僕が、当然、一番乗りだった。
神社跡。荒れ果てた、うらぶれた風景。
お札は変わらず――貼られたままだ。
「神原。気分は大丈夫か?」
「うん。思ったより平気だ」
「何か馬鹿なこと言ってみろ」
「私は車の中で本を読んで、酔って気分が悪くなるのが好きだ」
「何か面白いことを言ってみろ」
「仕方ないではないか!やらなければお金をくれないと脅迫されたのだ!」
「何かエッチなことを言ってみろ」
「好きな女の子が処女かと思ったら猩々だった」
「よし」
最後のか軽く微妙だが、まあ、大丈夫なようだ。
小説 化物語(下) 136ページ
やっぱり笑い上戸だ。
どうやら会話の内容以上に、僕と神原とのやり取り自体を面白がってくれているようだが、
まあそれはそれで、観客としてはいいリアクションなので、そんなに悪くないな。
「じゃ、さっさと……とっとと準備するか」
「阿良々木先輩、今の、どうして言い直した?」
適当な場所……つまり、草木かそこまで傍若無人に茂っていない場所を探し、
その四方に、それぞれの持っていた三つと、鞄に入れていたもう一つの懐中電灯を設置する。
スクエアの、中心を照らすような配置だ。地面は土。
その土に、その辺りの木の棒を使って線を引き、懐中電灯同士を繋いで、
本当にスクエアを形成する――いわゆる結界という奴だ。
相当に簡易式だけど、それで構わないと忍野は言っていた。
結界は、とりあえずは区切られていることだけか重要――なのだそうだ。
スクエアの中に、ビニールシートを敷く。
このビニールシートも、勿論雑貨屋で購入したものである。
そして、そのスクエアの内部に――千石か這入る。
一人で。スクール水着姿で。
「………………」
その水着は、雑貨屋で購入したものではなく(そんなものは雑貨屋には売っていない)、
ブルマーと同じように、神原が『たまたま』準備してきたものだった。
「……お前は懐中電灯を買う金も持ってなかった癖に、
なんでブルマーやらスクール水着やらを持っていたんだ」
「お金よりも大切なものが、世の中にはある」
小説 化物語(下) 155ページ
僕だって――それくらいは知っている。
僕がやり過ごせば――蛇切縄は、この場を去る。
既に、千石からは引き剥がしている。
蛇は――帰るのだ。
「……だ、だが神原!それじやあ――」
それは、帰るだけだ。還るんじやない。
返すん――だ。呪い返し――人を呪わぱ穴二つ。
人を呪わぱ――穴二つ。
蛇の牙で穿たれたがごとく――穴二つ。
「阿良々木先輩!頼むから――」
神原は、悲痛な声で言った。僕に、訴えるように。
「――助けるべき相手を、間違えないでくれ]
ざざざざざ。ざざざざざ。ざざざざざ、と。音がする。
蛇切縄が、地面を這う音――この角度からでは、
舞い上がる土煙も、掻き分けられる草も見えない。
けれど――その音が、確かな速度を伴って、遠ざかっているのは、わかる。
蛇切縄は――這い去ろうとしていた。
神原の左腕によって、一気に五メートルも移動させられた僕を、見失ったのかもしれない。
それとも、そもそも、蛇切縄は僕のことなど、最初から相手にしていなかったのかもしれない。
蛇は――帰る。遣わした者の場所へと。
呪いを――持ち帰るために。
小説 化物語(下) 156ページ~157ページ
実際、神原の判断は正しかった。それは認めるしかない。
あのまま続けていても、僕が蛇切縄を打倒できる可能性なんて、
ほとんどなかったのだから。
怪異もどきの僕が、怪異そのものに、対応できるわけもない。
蛇の咬撃を回避するために激しく動いて、毒が早めに身体に回って、
ぶっ倒れるのがいいところだっただろう。
単に――諦め切れなかっただけだ。だだをこねていたようなものだ。
だからこそ、痛感する。右腕の痛みも、左脚の痛みも。
その痛感に較ベれば、まるで皆無だ。
僕は、薄い。僕は、弱い。僕はI本当に無力だ。
「暦お兄ちゃん……」
蛇が去り――
意識を取り戻したらしい千石が、僕と神原のところへ、覚束ない足取りで、近付いてきた。
怪異なき今、あの結界はもう意味をなさない――
千石の、スクール水着から覗く肌に、食い込んでいた鱗の痕は、全身隈なく、消えている。
半分じゃない。全部、消えている。色白の、きめ細かい、綺麗な肌だ。
もう彼女は、苦しくない。もう彼女は、痛くない。
もう彼女は、泣かなくていい――
「暦お兄ちゃん。助けてくれて、ありがとう」
やめてくれ。千石。
お願いだから、ありかとうなんて、そんな聞くに堪えない言葉……言わないでくれ。
僕に、お前からそんなことを言ってもらう資格はない。
僕は、あろうことか――お前を呪った人間までも、助けようとしていたのだから。
0 件のコメント:
コメントを投稿